by axxxm
24/September/2025 in Kraków
先日、ロンドンを一年ぶりに訪問した。ロンドンは過去10年で5回ほど訪ねているが、今回の滞在は実質的に8時間程度と、もっとも短いものだった。しかし過去の滞在のどれよりも、もっとも発見が多かった。一つはイギリス文化について、もう一つはイギリス人についてである。本稿ではイギリス文化について書く。
ここ数年、私は絵に興味があるので、イギリス絵画を展示しているテート・ブリテン美術館を訪ねた。そこで目にしたのが「Portrait of Anne Wortley, Later Lady Morton(1620/作者不明)」という、ドレスを着た貴族の女性のポートレイト画である。この絵を通して、私はイギリスという国の文化の豊かさを知り、そして初めて尊敬の念を抱いた。そのような心境に至るまでには3つの理由があったので、順に紹介していく。
この絵が描かれたのは、日本でいえば江戸時代が正に始まったころである。その時代、イギリスにはすでにこんな豪華絢爛な服があったことに驚いたのが1つ目である。
2つ目は、そのような衣装をここまで忠実に、綿密に描く技術がすでにイギリスにはあったことだ。絵の横の作品紹介には「Oil paint on canvas」とあり、これが油絵だとわかる。しかし油絵というものが400年も前のイギリスにはすでにあり、それを使ってここまで描けてしまうほどにその技術が洗練されていたことに感心した。
そして3つ目が、400年も前の絵が、色も薄れず、大きな割れも出ず、まるで新品のような状態で残っていること。日本の江戸時代の絵が軒並み色が抜けて霞んでしまっていることを思えば、この驚きも当然であろう。
さて、絵に近づくと分かったが、額縁にはガラスがはめられていない。絵は剥き出しのまま展示されている。400年も前の絵が、ガラスの保護なしで公衆に(しかも無料で!)展示されているのである。私はそこに「イギリス人の自信」、「文化に対する絶対的な自信」といったものを感じた。
もし日本であれば、「こんな昔のものが、こんなきれいな状態で残っている」と慌てふためき、腫れ物に触るかのように扱い、そして往々にして「文化財保護」の名目で人々から遠ざけられ、人目のつかないところに隠されるのがオチである。しかしこの国では、「この程度のものなら他にもたくさんあるからさ」といった様子で堂々と展示しているのである。
イギリス人の文化に対する自信と余裕を、無言のうちに実にはっきりと示された気がした。