最初にだけある、美

7/August/2024 in Kraków

*English ver

昨日、カフェで話しかけた女性。

一日経ってふりかえってみると、最初の出会いにしか存在できない美というものを感じる。記憶の中の彼女は、実際に目の前にいたときよりも魅力的に見え、実際に目の前にいたときには感じなかった魅力すらも今は感じる。

大きな荷物をもっている老人が歩道を渡っていたら助けてあげるとか、「クラクフで一番お気に入りの花屋はここ」とか、今は母に頼まれたときにだけバイオリンをひくとかいう、彼女を構成する小さなエピソードの数々と、そしてあの20分ほどのやりとり全体に満ちていたキレイな空気。

知らない人について知っていくこと、つまりゼロからイチへと進むこと。そしてその積み上げた「イチ」が、優しさとか花とか家族とかいうキレイな材料だけで作られているのならば。


……彼女にはまた近々会うだろう。しかしこれから残されたものは、「イチ」をニ、サン、ヨンにしていくことだけだ。優しさとか花とか家族とかではない、悲しみだとか涙だとか弱さだとかのキレイじゃない材料でできた層を積み上げていくこと。美しい記憶を、美しい幻想を、ひたすら壊していく作業。キレイな人に出会ったときにいつも覚えるこのジレンマ。

しかし、彼女は初めての人だ。今回クラクフに来て知り合った人のなかで、記憶の中で美しく発酵し、私の夢を誘った初めての人だ。だから、私はもう十分満たされているのかもしれない。再び彼女に会う必要なんてもうないのかもしれない。