15歳で成長が止まってしまった彼女の身体

9/August/2023 in Krakow

*English ver

昨日行ったmeetupでも会ったS。

ウクライナ、キエフ出身。

以前のmeetupでも話をしたことがあったので、会うのはこれでおそらく3回目。

歳は30代といっていた。顔にはシワが目立ち、確かに30代あたまから中頃といった年齢だろう。

はじめから私は、彼女になんの性的関心も恋愛的な関心も持っていなかった。

これまで話したところから受けていた印象は、「誠実そうな人で、友達になったら、長く付き合えそうな人だな」といったいところ。

しかし昨夜はそれとはまったく異なる印象を受けた。

少女みたいな身体を彼女が持っていることに気がついた。


昨夜、いつものmeetup会場のバーの地下の奥の小さな部屋で、私とSを含め計5人で話をしていた。

男は3人で、女性はSともうひとり、アジア出身の女性。

話の主導権はこのインド人女性が握っており、彼女が話のタネを色々と持ち出してきては、その他の参加者が口を開くという具合だった。

そういう中で、私のすぐななめ前のソファに座るSは話にまったく入らず、誰かが彼女に質問を向けたり、発言を促したりしない限りは口を開かなかった。

うなづいたり笑顔を見せたりといった、「聞いているふり」、あるいは「参加しているふり」を見せることもなく、目をしばしば天井に向けたり、体内のよどみを解消するように時々身体を前後に動かしたりするのが、彼女のしていることのすべてだった。

そして実は「少女みたいな身体」という私の印象は、単に肉体的なことを指すのではなく、このような彼女の態度にも負っているものが大きい。

もし彼女が「空気を読んで」「他人に配慮して」、あるいは「孤立を恐れて」、ソファから身体を前のめりにして、面白くもないのに笑みを浮かべていたり、聞いていることを示すように大袈裟にうなづいたりしていたなら、私の中での印象は「ありがちな俗人」といったものに落ちていたかもしれない。


5人での話の最中、私の注意は、よくしゃべるインド人女性や、気の利いたことをいう他の話者たちよりもはるかに、何も話していないSの方に引きつけられていた。

「動」のなかで唯一静止しているもの。

異物。

しかしなぜか彼女に「異物感」はまったくなかった。

他の人から「この人は退屈しているな。話を振ってあげなきゃ」とか、「この人が楽しそうにしていないのは、私たちの話していることが退屈で無意味だからかな」といった、水を差すような雰囲気を彼女はまったく発していなかった。


Sは私からほんの50センチほどのななめ前に座っていたので、彼女の身体が視界に入らないわけがなかった。

上は白の無地のシャツ。

下にはショーツを履き、膝より少し上からの脚がのぞいている。

履き物はごつごつした、おしゃれとはいえないもの。

マニキュアは足にも指にも塗っていない。

ショーツの色合いはうすいベージュで、白のシャツとともに服装の主張はゼロに近い。

顔に化粧っけはなく、目のまわりのシワがめだつ。

彼女がトイレやカウンターにドリンクを頼みに行くうしろ姿を目で追っていると、背丈は160cmほどと高くなく、身体つきは非常に細い。

胸のふくらみも希薄で、手の甲に血管はまったく浮き出ておらず、指の作りもギスギスして細いのでも、触ったら暖かそうなぷっくりとふくらんだものでもなく、15歳の少女の手が、そこで時が止まって、今にまで続いているような感じである。

どこかの指にひとつだけ指輪をつけていたが、その色も形もまったく記憶に残っていない。彼女の手の美しさを壊すものでも高めるものでもなく、中性的存在に留まっていたからだろう。


天井からの照明の当たり具合もあったのかもしれないが、彼女がソファの背もたれにぴったりと背をあて、背筋を伸ばして座っている時には、なにか神々しい光が彼女の身体から発散されているように見えるときがあった。

一体あの光はなんだったのだろうか。

15歳で発育が止まってしまったような彼女の身体。


……こう書いてきて、こういったことが旅をすること、人に会うこと、そして書くことの楽しみだと強く感じられる。

私は彼女に性的関心や恋愛的な興味を抱いていたわけではない。しかし「下心」とか「恋心」とかいった、周囲の人間が他人の関係性をカテゴライズするためだけに使う言葉では捕捉できない、なんらかの特殊な関心を私が彼女に抱いたのは確かだろう。

周りの人間も、そして彼女自身も気がついていない、しかしたしかに彼女が一瞬見せた輝きを、私独自の感性で捕まえて、言葉にすること。

人に会わなかった日の翌日は書くことがない気がする。

美しい景色、食事、歴史、文化、ふと目にした変わった習俗……、旅行につきもののこういった事柄を書くのも楽しいが、もっともインスピレーションを受けるのは人間だ。

生あたたかい身体をして、くさい息を吐き、全員がそれぞれ固有の意思と感情を持つもの。

まことに予測不可能で、まことにまとまりがなく、そしてまことに愛しにくい存在……、「人間」と呼ばれる者たち。